本研究では、下部地殻で形成された変成岩類の、上昇の時間スケールを推定することが目的である。三つの異なる手法を用いて、研究を進める。 1、エクロジャイトという岩石は密度が非常に高いにも関らず、軽い石英に富む変成岩に囲まれたブロックとして多くの造山帯に分布している。高温の下で石英に富む岩石は流動的に振る舞い、これらのブロックは周囲の岩石の間を沈んでゆくはずであるというのが今回の研究の新しい見解であった。ブロックを上昇させるため、周囲の岩石は沈降速度よりも速く上昇しなければならない。ブロックの大きさ・密度、それから周囲の岩石の密度・粘性の推定から、中国山東省に分布するエクロジャイトは一年で1cm以上の速度で沈降していたことが判った。故に、周囲の岩石の上昇速度は非常に速く、一年で数cm以上でなければならないということが判った。この推定をさらに定量化するため、同地域で精密な放射年代測定を行う予定である。2、西南日本に分布する三波川変成帯の上昇速度を推定するため、放射年代測定を行う予定である。今回、既存のデータに併せて、最高変成度を示すエクロジャイトの形成年代と同じユニットが、低温に達した年代を推定する予定である。得られた年代の地質学的な意義を知るために、以下のことを今年度に明らかにした。(1)四国中央部には、エクロジャイトが幅広く分布している。(2)エクロジャイトは減圧・昇温のP-T経路を示している。 (3)石榴石・オンファス輝石は同時に成長した。これらの情報を用いてサンプルを選別し、Sm-Nd法とLu-Hf法による最高変成年代を推定する予定である。フィッショントラク年代法を用いて三波川変成帯が低温に達した年代を推定する予定である。今回の研究で行われた調査によって、初めて変成度が高い地域から利用できるサンプルを発見し、そのサンプルの構造的な記載などを終了した。3、実験データを用いて、鉱物中の拡散から変成作用の時間スケールを推定することが可能である。今回の研究では、三波川変成帯で形成した石榴石中のcrackに着目し、crackの両側に拡散profileがあるということを初めて確認した。
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