今までの研究により、バイカル湖堆積物中の全有機物の安定炭素同位体比(δ^<13>C_<toc>は完新世(間氷期)では氷期よりδ^<13>C_<toc>値が低く、間氷期・氷期という対照的なそれぞれの気候下でのシステマティックな違いが示されてきた。そのようなδ^<13>C_<toc>値の違いは気候変化に引き起こされた湖沼水系における植物植生のC3植物とC4植物の相対的寄与率の変化(氷期には同位体的に重いC4植物が比較的多く繁茂した)で説明されてきた。本研究ではバイカル湖堆積物のδ^<13>C_<toc>値の変化が陸上植物の植生の変化に対応するかどうか、奇数炭素をもつ陸上植物由来の個別長鎖n-アルカン(C_<27>以上)の炭素同位体比を測定した。過去約2万年の記録をもつバイカル湖北部堆積盆でのコア試料(Core 323-PC1)を一定間隔で分析した。その結果、分析した全コア試料を通して陸上植物葉ワックス由来のC_<27>-C_<33> n-アルカンの個別炭素同位体比は-31.0から-33.5%_0の範囲で注目すべく一様であった。そのような炭素同位体比は堆積物コアを通してn-アルカンがC3植物によって生合成されたことを示す。 本結果は更新世氷期に見られるδ^<13>C_<toc>値の増加はC4植物植生がバイカル湖水系に広がったためではないということを示し、従来の氷期・間氷期におけるδ^<13>C_<toc>値の変化に対する説明に再考を促す。 これらの結果を第19回国際有機地球化学会で発表するとともに国際学術誌に投稿した。
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