本研究では、イオン分子反応、特にプロトン移動反応における反応生成物の振動・回転量子数分布を支配している因子を、分子軌道法およびダイレクト・ダイナミックス法により明らかにすることを目的した。さらにこれまでに実験が行われていない反応系について、振動・回転状態分布を理論的に予測し、実験計画の指針となるモデルを構築することが本研究の目標である。本年度、研究の対象とした反応系は、プロトン移動反応 H_2O^++H_2O→H_3O^++OH(I) NH_3^++NH_3→NH_2+NH_4^+(II) HCl^++HCl→H_2Cl^++Cl(III) である。さらに、ダイナミックスの詳細を明らかにするため、これらの中性ダイマーからのイオン化に伴うダイナミックスを同様な方法で取り扱い、量子状態分布の特異性についての原因を明らかにした。このダイマーからの反応は、衝突配向を規定したダイナミックスを取り扱うことに相当し、全反応と比較することよりダイナミックスについての詳細を議論した。反応Iでは、2分子衝突反応における生成物の並進運動エネルギー分布が、2つの分布の重ね合わせで表されるのに対して、ダイマーからのイオン化によるプロトン移動反応は、1つの分布であった。これは、2分子衝突ではあらゆる角度からランダムに衝突するのに対して、ダイマーからでは配向が規定されており、1つの衝突の分布飲みになるためである。IIおよびIIIの反応においても同様な計算結果が示された。以上のように、本研究で開発したダイレクト・アブイニシオ・ダイナミックス法により、多次元系の化学反応の詳細が議論できた。
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