固体表面における化学反応を理解するためには、反応が進行している状態で表面吸着分子の配向や結合状態を明らかにする必要がある。電子刺激脱離(Electron Stimulated Desorption)は固体表面上の吸着種を電子線により励起し、脱離するイオンを解析する手法であり、脱離イオンは切断される結合方向に脱離するため、その角度分布(ESDIAD:電子刺激脱離イオン角度分布)を測定することにより化学結合の配向を知ることができる。温度制御型電子刺激脱離イオン観測装置(Temperature Programmed(TP)一ESDIAD/TOFsystem)では連続的昇温及び定温条件により反応が進行している状態で観察できるところに特徴がある。 表面反応過程の例としてメタノールの解離過程を取り上げた。前吸着酸素が存在する場合のRu(001)表面に酸素原子を0.25ML吸着させて(2X2)構造を示している表面にメタノール(CH3OD)を吸着させてその反応過程をESDIADにより調べた。200K以下でブロトンによる法線方向にくぼみがあるバターシが見られ、メトキシル基のC-0結合が表面に対して垂直であることに対応している。酸素原子が存在しないメタノール単独吸着の場合にはこのようなパターンは観測されず、メトキシル基の配向はランダムである。前吸着酸素原子がメトキシル基の配向を規制していると考えられる。また、前吸着酸素原子が存在した場合にメトキシル基の解離完了が20K高温側にずれることがわかった。 このようにTP-ESDIAD/TOF装置を用いた測定により吸着種の挙動がリアルタイムで捉えられるようになってきている。現在は、ESDIAD像において、全イオン種が寄与しているが、ゲート機能付きCCDカメラによる質量選別したESDIAD像を得るためのシステム改良を行っている。
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