平成10年度には以下の研究成果を得た。 1 クラスター負イオンの衝突反応装置の設計:現存の実験装置は、クラスター負イオン源、質量選別器、光電子分光器で構成されている。次年度にこれと組み合わせる予定の、反応室と質量分祈器に関する設計、製作を行った。 2 (NO)_n^-の電子構造:(NO)_n^-(n=1-7)の電子束縛状態について光電子分光法を用いて調べた。光電子スペクトルと分子軌道計算の結果をもとに、2量体ではtrans-ONNO^-、3量体以上では直鎖あるいは枝分かれ構造をもつN_3O_3^-がイオンコアとして形成されているものと結論した。 3 {(CO_2)_nROH]^-の電子構造:(CO_2)_n^-に対してH_2OやCH_3OHなどの極性分子が付加した2成分クラスターの電子構造を調べた。極性分子がCO_2^-およびC_2O_4^-のイオンコア対して水素結合を介して溶媒和し、2種類の電子構造異性体を生成することがわかった。ホールバーニング分光法を光電子分光と併用し異性体の共存機構を調べ、電子構造の異性化過程のモデルを提唱した。 4 アクリロニトリルに対する(CO_2)_n^-の求核付加反応:アクリロニトリル(AN)と(CO_2)_n^-との反応で生成した[(AN)CO_2]^-の構造を光電子分光法と分子軌道計算によって調べた。その結果、ANのαおよびβ炭素に対して、CO_2^-が求核的に付加した分子負イオンが生成していることがわかった。この研究によって、(CO_2)_n^-が求電子的な炭素に対するカルボキシル化試剤として有効であることを示した。 5 新奇負イオン[OCH_3l]^-の生成と構造:O^-(N_2O)_nを反応試剤としてCH_3lと反応させると、会合体[OCH_3l]^-が得られた。その光電子スペクトルの解析および分子軌道計算の結果から、ヨウ素引き抜きやS_N2の反応中間体に相当する2種類の異性体[CH_3lO]^-および[l^-...CH_3O]が共存しているものと結論した。また[CH_3lO]^-の光励起により、通常のイオン-分子反応では進行しないlO^-生成過程を引き起こすことに成功した。
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