研究概要 |
本年度はまず、既に得られている分子性反強磁性体BMT-TTFI_2,FeX_4(X=Cl,Br)について、その磁性についての詳細な検討を行った。これらの結晶は同型の1:1塩であり、結晶中では磁性アニオンが分子間ハロゲン・・・ハロゲン接触により一次元鎖を形成し、ドナー分子ダイマーがそれらを架橋するシート構造をなしている。このような低次元的構造にもかかわらず、この塩の磁性は高温部では三次元的なCurie-Weiss的挙動を示すとともに、低温で反強磁性転移を示す。特にFeBr_4塩は既知のπ-d系磁性体の中では最も高いNeel点(T_N=15K)をもつが、これはドナー-アニオン間の、分子間結合に匹敵する非常に強いヨウ素・・・臭素原子間接触により磁性アニオン間の距離が縮まった一種の化学的圧力効果によるものと解釈できる。 また、伝導電子と磁性対イオンとの相互作用を強めるためには伝導を担う分子のπ系が分子末端まで広がっていることが必要である。これを踏まえて、いくつかの分子について分子軌道計算を行ったところ、分子端に1,3-ジチオール環をもつ分子がπ系の広がり、およびCH・・・X型水素結合による分子間接触の構築に有効であるとの知見を得た。そこで現在、分子の片側に1,3-ジチオール環骨格を有するドナー分子MDT-TTF、PDT-TTF、EDO-TTFをそれぞれ合成し、これらのドナーのラジカル塩へのFeX_4系を中心とした磁性イオンの導入を検討している。
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