本研究においては、1)ラジカルや励起分子のESRスペクトルを気相中の極低温分子に対して測定するために超音速ジェットとESRの検出器を組み合わせた装置の製作を行う、2)装置完成後に様々な分子のスペクトルを観測して液相中におけるスペクトルの違いから分子内部の電子状態緩和過程やラジカルと溶媒の相互作用に関する知見を得る、の2点を目的とした。初年度は、おもに新装置の設計製作を行い、パルスジェットバルブ用の真空チャンバーとESRキャビティー内を分子線が通過する部分の真空チャンバーを差動排気にした装置を製作した。この装置では、分子ジェットの一部をスキマーで切り出してESRキャビティー内真空チャンバーに導入することができ、ESRキャビティー内部で極低温分子が真空チャンバー壁に衝突することにより加熱されてしまう効果を押さえることが可能となった。初年度終了現在、実際の測定の向けて、チャンバーの各種性能チェックを行うところである。 装置製作と並行して、次年度で作成装置により観測する対象種として考えているケチルラジカル類について、既存ESR装置によりラジカルとアミンの錯体生成に及ぼす溶媒のケージ効果に関する実験を行い、液相中の特殊なケージ効果がラジカルの構造および錯体生成反応に重大な効果があることを見出した(投稿準備中)。とくにラジカルの水酸基と芳香環の相対配置が大きく影響を受けることが明らかとなり、次年度に溶媒との相互作用がない気相中のラジカルのスペクトルと比較し、ケージ効果などに関する議論の材料として用いる予定である。
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