本研究では、ラジカルや励起分子のESR測定を気相中の極低温分子に対して行うために、超音速ジェットとESRを組合わせた装置の製作を行い、液相中のスペクトルとの違いから電子状態緩和過程やラジカルと溶媒の相互作用に関し知見を得ることを目的とした。今年度は、製作した真空チャンバー装置を用い、分子線ラジカルのESR法およびパルスESR法による検出を試みた。観測には気相でのESRスペクトルがよく知られている二酸化窒素を用いた。観測したESRスペクトルは大変ブロードであり、十分な冷却効果が得られていない可能性が示された。将来の課題としてESRキャビティー内への分子線導入方法を改善することで冷却効果を最大限に引き出すことが重要であると結論した。 分子線ラジカルのESR検出実験と並行し、ケチルラジカル類について既存ESR装置によりスピン分極生成やラジカル-アミン錯体生成に及ぼす溶媒のケージ効果に関する実験を行った。これによりラジカルの溶媒和エネルギーが閉殻分子の場合に比べて極めて大きいことが示された。また、溶媒中でのケチルラジカル生成過程への溶媒効果を理解するため、励起芳香族ケトン類の電子移動状態についてクラスター中での発光スペクトル観測を試み、電子移動状態からと考えられる発光を得ることができた。
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