本研究では、直線偏光したシンクロトロン放射を利用して分子の多電子励起状態を生成し、その崩壊によって生じた一対の正、負イオンを同時計測する。そして、偏光方向及びそれと直角方向で得られた飛行時間差スペクトルの幅や形状を解析し比較することにより、イオン対状態の前駆体である多電子励起状態の対称性や電子状態を明らかにすることを目的とした。 まず、本研究に必要な正-負イオン同時計測装置の設計、製作を行った。これは、飛行時間型質量分析器を光反応領域の両側に同軸上に2台並べたものである。また、正イオン用マイクロチャンネルプレートなどの信号検出系の整備を行った。励起光源としては、広島大学放射光科学研究センターの電子蓄積リング(HiSOR)からのシンクロトロン放射を用いた。ビームラインに設置されている定偏角斜入射型分光器によって単色化した後、真空槽内に導入し、励起光とした。標的分子気体をノズルから噴出させた後、真空槽に導入し、窒素や希ガスなどの試料を用いて、生成した正イオンを検出し、各々の質量分析器の単独での性能を確認した。今後は、負イオン用マイクロチャンネルプレートなどの信号検出系を整備し、正-負イオンの同時計測を行う。光軸を法線とする平面内で真空を破らずに回転可能な既設の真空槽にこの装置を組み込んで、角度分解した正-負イオンの同時計測信号を検出することにより、20〜50eV付近に多数存在する分子の多電子励起状態の対称性や電子状態を明らかにしてゆく。
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