本研究では、直線偏光したシンクロトロン放射を利用して分子の多電子励起状態を生成し、その崩壊によって生じた一対の正、負イオンを同時計測する。そして、偏光方向及びそれと直角方向で得られた飛行時間差スペクトルの幅や形状を解析し比較することにより、イオン対状態の前駆体である多電子励起状態の対称性や電子状態を明らかにすることを目的とした。 今年度は、まず、昨年度に製作した正イオン用及び負イオン用の2台の飛行時間型質量分析器を光反応領域の両側に同軸上に並べて1台の同時計測装置として組み上げた。今年度の予算で負イオン用マイクロチャンネルプレートなどを購入して同時計測に必要な信号検出系を新たに整備した。この装置を、光軸を法線とする平面内で真空を破らずに回転可能な既設の真空槽に組み込んで、広島大学放射光科学研究センターの電子蓄積リング(HiSOR)からのシンクロトロン放射を励起光として用いて、20〜50eV付近に多数存在する分子の多電子励起状態の対称性や電子状態についての研究を行った。以前に本研究代表者らが行ったCO2分子の正-負イオン同時計測実験では、質量分析器の角度を固定した状態での測定しか出来なかったために25〜40eV付近に多数観測されていた2電子励起状態のアサインメントを正確に行うことが不可能であった。しかしながら本研究において、放射光の偏光軸に対して同時計測装置を平行及び直角方向に設置して測定を行い、得られたスペクトルの比較を行うことによって、2電子励起状態の対称性を明らかにすることが初めて可能となった。
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