研究概要 |
テトラキス(ジメチルシリル)エチレン-ジアルカリ金属錯体において典型金属であるアルカリ金属とヒドロシリル基が相互作用していることを、X線構造解析、NMR、IR等の分光学的観測から明らかにしている。本研究ではアルカリ金属イオンとヒドロシリル基間の相互作用をより一般的な化学種に拡張して発現させるため、大環状アルカンに複数のSiH_2ユニットを組み込んだ化合物、1,4,7,10,13-ペンタシラシクロペンタタデカン(15-Si-5)、1,4,7,10,13,16-へキサシラシクロオクタデカン(18-Si-6)を設計、合成した。分子力場計算で15-Si-5、18-Si-6のキャビティーの大きさを検討した結果、15-Si-5では水素原子間の距離で約4Åのキャビティーを、18-Si-6では約5Åのキャビティーを有していると見積もられ、それぞれリチウムカチオン、ナトリウムカチオンに対して適当なサイズであると考えられる。実際に、テトラフェニルボレートを対アニオンとするリチウムカチオン([Li(CH_3OCH_2CH_2OCH_3)_3]^+)、ナトリウムカチオン(Na^+)との錯化を検討したところ、18-Si-6についてはいずれのカチオンとも1:1錯体をほぼ定量的に生成したのに対し、15-Si-5はリチウムカチオンとは錯化せず、またナトリウムカチオンとは錯化するものの収率が極めて低いことが分かった。 15-Si-5では18-Si-6に比べSiH基の数が減っていることによりアルカリ金属イオンとの錯化エネルギーが小さいと推定され、リチウムカチオンについては3分子の1,2-ジメトキシエタン(CH_3OCH_2CH_2OCH_3)による錯化の安定化の方が大きいため交換反応が起こらず、錯体を形成しなかったものと考えらる。
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