研究概要 |
X線単結晶解析は分子・結晶構造を研究する手法として広く用いられているが、化合物が室温で液体であるC6程度の低分子化合物の結晶解析データはほとんど得られていない。一方、このような分子については理論計算や分光学的測定がなされており、3次元構造の決定については多大な興味が持たれている。そこで申請者は液体物質の単結晶化の手法を確立し、迅速X線回折法によるX線構造解析の結果を元に物質の特性を調べることを目的として本研究を行っている。 平成10年度は、スチレン分子(C_8H_8、融点-31℃)の結晶化と構造・重合活性について研究を行った。この分子は工業的にポリマー原料として使われており、しかもその精密な分子構造が理論計算によって調べられているなど、分子の三次元構造が多分野から興味をもたれているためである。結晶化についてはさまざまな手法が考案されているが、本研究ではスチレンをキャピラリに封入し、迅速測定装置に取り付けたまま、吹き付け型低温装置を使って融点下でサイクリックに温度制御する手法を考案しスチレン単結晶の作製に成功した。結晶の温度を-100℃に保ち、迅速測定装置を使ってわずか5時間で結晶構造解析に必要な反射データをすべて収集することができた。構造解析の結果、空間群 Pbcn,Z=8,R=4.12%となった。分子構造は理論計算によるものとよく一致していたが、ビニル基のねじれ角が約5゚であり理論計算による27゚とかなり異なっていた。これは結晶のパッキングによるものと考えられる。また、結晶にUV光を照射することにより、ビニル基がポリマー化する可能性について検討したところ、ビニル基間の距離が4.5Åとやや遠いため、この結晶構造のままポリマー化する可能性が低いことが分かった。実際にUV光を照射したところ重合反応は起こらないことが確認できた。
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