研究概要 |
当研究室で開発されてきた光学活性ホスフィン配位子MOPは、不斉反応への応用を主眼において開発されてきたものであるが、MOPのパラジウム錯体を触媒とする求核剤によるアリル位置換反応においては、従来の定説にあてはまらない異常な選択性を示す。すなわち、通常のホスフィン配位子を用いた従来の系においては、脱離基の位置にかかわらず共通の中間体を経由して、linear型の生成物をメインに与えるのに対し、MOPを用いると基質における脱離基の位置が中間体において記憶され、出発原料の選び方によって異なった位置への求核攻撃が起こる。この現象は、Memory effectと呼ばれ、近年、パラジウムの化学において非常に注目を集めている。この現象の発現機構に関する研究、および、Memory effectの選択性の向上を目指して、MOP類似の構造を有するいくつかの新規アキラルホスフィン配位子、(2-diphenylphosphinophenyl)aryl(aryl=phenyl,1-naphthyl,9-anthracenyl)を合成し、パラジウム触媒によるアリル位置換反応への応用を検討した。その結果、Memory effectの発現の為には、arylとして立体的に嵩高い置換基が必要なことが確認された。基質として選択的に重水素化したcycloalkenyl esterを用いた実験において、9-anthracenyl基を持つホスフィンを用いた場合には、最高93%の割合で脱離基の位置が保存された生成物を与えることがわかった。この保存性は、従来報告されていた価を大きく上回る、現在までの最高値である。
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