1-ブロモアダマンタンのソルボリシス速度定数(k)に対する、橋頭位アルキル置換基の影響を検討した。置換基がイソプロピル基の場合について、その個数を0から3まで増加させたところ、EtOH中ではlog kが直線的に増大するのに対し、80%EtOHおよび70%EtOHでは置換数の増加とともに反応速度は一旦増大した後減少することが明らかとなった。この結果は、1)β水素へのブレンステッド塩基型溶媒和のイソプロピル基による阻害、2)疎水性相互作用による基質の周囲の溶媒組織の変化、により説明できる。本研究により、一般に広く行われている含水溶媒中でのソルボリシス研究において、従来見落とされていた反応基質と溶媒分子の特異的相互作用の重要性が示された。 一方、2-ビシクロ[3.2.2]ノニルカチオン(1)は、陽電荷が局在した古典的イオンであることが提案されていたが、ソルボリシス条件下でのイオン構造はこれまで明らかにされておらず、非古典的イオン問題と関連してその解明が望まれていた。本研究では、アシル化環拡大法による炭素骨格構築により、1位をC-13で標識した2-ビシクロ[3.2.2]ノニル・p-トルエンスルホナートを合成し、そのソルボリシスをアルコール系溶媒中で検討した。生成物であるオレフィン及びエーテル分子中の標識炭素の分布から、カチオン1は古典的イオンであり、2つの縮重構造が速いWagner-Meerwein転位により相互変換していることが明確に示された。さらに、オレフィンとエーテルにおける標識の分布の違いから、前者は接触イオン対から、後者は溶媒介在イオン対から生成することが示された。
|