フェノール性クラウンエーテルとアミン類との錯形成においては、多くの場合に錯安定性の尺度の一つである錯安定度定数(K)の対数(lnK)が1/Tと直線関係を持ち、エンタルピー・エントロピー各効果を定量的に見積もり得る。この錯形成反応を用いれば、主に室温付近における錯形成能に基づき立体反発や受容体の基質捕捉部の空孔サイズと基質サイズの適合性など定性的な受容体-基質相補性を主な判断基準としたこれまでの分子設計に、エンタルピー・エントロピー各項を考慮した新たな判断基準を提案でき、精度の高い受容体設計に寄与しうるのではないかと考えられる。そこで人工受容体設計に、エンタルピー・エントロピーを考慮した指針を与える事を研究の目的とし、以下の三段階の研究計画を立てた。 (i)人工受容体選定および合成:構造相関のつく複数のクラウンエーテルを合成する。(ii)アミン類との錯形成能の温度依存性の検討、(iii)エンタルピー・エントロピーの各項と受容体一基質間の分子構造相関解明 本年度は、ホスト分子の系統的な構造変化と錯形成能変化の相関にエンタルピー・エントロピーをもちいた定量的な考察を加えるために適すると考えられる、互いに構造相関のある一群のホストの合成することを試みた。その結果、当初計画に挙げた5種類のホストのうちの3種類を含む合計6種類のホストを光学活性体として合成することが出来た。今後、これらホストを用いてゲストアミンとの錯形成における温度依存性の検討に進む予定である。
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