研究概要 |
セレネン酸は、グルタチオンペルオキシダーゼの触媒サイクルなど種々の反応の重要な中間体として注目を集めているが、極めて高い反応性をもつためにこれまで安定な単離例がない。本研究では、申請者らが独自に開発した新規なbowl型反応場を活用して、セレネン酸を安定に合成・単離するとともにその構造および反応性を解明することを目的として検討を行った。bowl型反応場の基本骨格として、cone型配座および1,2,3-alternatc型配座に固定された架橋カリックス[6]アレーンを開発し、それらの骨格を有するブチルセレノキシドの熱分解により、安定なセレネン酸の単離に初めて成功した。cone型配座をもつセレネン酸についてはX線結晶構造解析によりその構造を明らかにすることができた。その結果、SeOH基がカリックス[6]アレーンのキャビティ内に収まり、自己縮合を起こしにくい構造をとっていることがわかった。いずれの配座をもつセレネン酸も極めて高い安定性を有しており、重トルエン中80℃で12時間加熱しても分解は見られなかった。従来最もかさ高い立体保護基として知られている2,4,6-トリ-t-ブチルフェニル基をもつセレネン酸でさえも、溶液中室温で容易に自己縮合を起こすことが知られていることから、架橋カリックス[6]アレーン骨格の非常に高い保護効果が実証された。今回合成したセレネン酸はこのように極めて安定であるす一方で、m-クロロ過安息香酸なと適当な試剤とは速やかに反応した。特に1-ブタンチオールに対しては、cone型配座をもつ化合物と1,2,3-alternate型配座をもつものとでは異なる反応性を示した。このことは、カリックスアレーン骨格の配座によって内部官能基の反応性を制御できることを示しており興味深い。
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