ニトロキシドラジカルが結合したポルフィリン、フタロシアニン色素系は、光による磁気的性質の制御と関連して興味深い化合物である。その磁性制御には、励起三重項色素と二重項ニトロキシドラジカルから構成される励起多重項の形成が必要である。そこで本研究では、金属ポルフィリン、フタロシアニンに、一つのニトロキシドラジカルを配位結合させた錯体について研究を行った。励起三重項色素-二重項ラジカルからなる励起四重項について時間分解ESR測定を行い、以下のことが明らかになった。 (1) ラジカル-色素の励起エネルギーの相対関係-ポルフィリンの最低励起一重項(S_1)、三重項(T_1)のエネルギーを変え、ニトロキシドラジカルの最低励起二重項(D_1)エネルギーとの相対関係について研究を行った。その結果、T_1のエネルギーがD_1のエネルギーよりも低い系においてのみ励起四重項が観測され、励起エネルギーに関する光励起多重項形成条件が確立された。 (2) ラジカル-色素間の距離依存性-亜鉛フタロシアニン-ラジカル間の距離が異なる幾つかの錯体を合成し、測定を行った。その結果、フタロシアニン中心とラジカル中心間の距離が8Å以下では励起四重項の形成が確認されたのに対し、10Å以上ではラジカル-励起三重項間電子交換相互作用がほぼ0であることが明らかとなった。常磁性種間磁気的相互作用の距離依存性に関するESR研究は、これまで基底状態についてがほとんどだったが、今回励起状態に関して知見を得ることができたことは大変興味深い。
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