本研究では種々の分光法を用いて、再酸化過程を中心に依然不明な点の多いアミン酸化酵素の反応機構を明らかにするため、次の研究を行った。 1.平成10年度に設備備品として購入した超低温冷凍庫を用いて精製保存した土壌細菌(Arthrobactorglobiformis)由来の銅アミン酸化酵素(AGAO)をジチオナイト還元すると、Cu(II)とトパキノン(TPQ)がそれぞれCu(I)とhydroxyquinol型キノン種に還元され、その際TPQに比べCu(II)が先に還元されることが判明した。このため、本酵素はCu(I)/TPQの状態をとることができ、この状態では酸化型酵素に比べ、TPQの吸収帯が10nm長波長側にシフトし、TPQの1195cm^<-1>とC5位のカルボニル基のC=O伸縮振動に由来する1686cm^<ー1>のラマンバンドがそれぞれー9とー5cm^<ー1>シフトした。またpH7.3と8.2でも若干ではあるが、酸化型AGAOのTPQの吸収帯及びラマンバンドが同様に変化した。酸化型AGAOのX線結晶構造ではCu(II)とTPQのC5位のカルボニル基とは水分子を介して水素結合しており、ジチオナイト還元で銅イオンが還元され配位していた水分子を失うことにより、銅イオンとTPQとの相互作用がなくなり、上記のように吸収及びラマンバンドが変化したと解釈した。よって、酸化型AGAOでは水分子を介した水素結合により銅イオンがTPQの芳香環の電子密度に影響を与えていることが判明した。 2.吸収スペクトル及びストップトフロー法の測定結果より、リシンペプチドはシトクロムcペルオキシダーゼ(CcP)が認識するシトクロムcの部位のモデルとなることが示唆され、CcPはtetraーLysのような正電荷をもった分子(蛋白質)と静電気的相互作用により会合体を形成することが示唆された。さらに、リシンペプチドはCcPと相互作用することによりCcPのヘムに影響を及ぼし、CcPに構造変化が起きることが明らかとなった。これらの知見は分子認識を伴うタンパク質分子の反応の理解に有用な情報である。 以上の研究成果はアミン酸化酵素の反応機構の解明に基礎情報を提供するものである。
|