本研究は、嵩高いトリスピラゾリルボレートを配位子に用いて系統的にマンガン酸素錯体を合成し、その酸素活性化機構を明らかにすることで酸素を代謝する一連のマンガン酵素や合成化学的酸化触媒反応に関する知見を得るだけでなく、それを利用して新規酸化触媒系の開発を目的として行ったものである。昨年度までに、温和な条件下で酸素分子を容易に活性化可能な数種のマンガン(II)錯体のX線結晶構造解析に成功している。今年度は、まずこれらの錯体と酸素分子との反応で生成するマンガン酸素錯体の単離・同定を試みた。低温下においてマンガン酸素錯体の単離に成功し、IRおよび電子スペクトルよりパーオキソ錯体であると推察された。次に、マンガン酸素錯体の有機基質に対する酸素添加能について検討を行った。その結果、トリフェニルホスフィンに対しては触媒的酸化能を示すことが判明した。また、不飽和炭化水素類や含硫黄化合物など種々の有機基質を用いて検討を行うことで酸化反応に関与するマンガン酸素種の同定を検討したところ、反応性の違いなどから各々の反応に関与する活性種が異なっている可能性を提示した。また、マンガン酸素錯体の自己分解生成物について検討を行った。2種の錯体については単離・同定に成功し、各種スペクトルによりこれらはマンガン錯体により活性化された外部酸素が導入されたビス-μ-オキソ二核錯体および配位子の一部が水酸化されたμ-オキソ-ビスアルコキソニ核錯体であることを明らかにした。一方、マンガン(III)錯体と過酸化水素との反応よりマンガン酸素錯体の合成・単離に成功した。今後は、その結晶構造解析や反応性の検討およびその相関性の解明を要する。
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