研究概要 |
これまでの研究により、キノン配位子として3,5-di-tert-butylquinone(dbq)を持つルテニウムアクア錯体[Ru(trpy)(dbq)(H_2O)]^<2+>(trpy=2,2':6',2"-terpyridine)が、塩基と反応してヒドロキソ錯体に変換されると、電気化学的、及び分光学的な性質が大きく変化する事を明らかにしてきた。本年度は、アクア錯体とヒドロキソ錯体の変換が可逆的に進行することを利用して、電気化学的に大きく性質の異なるこれらの錯体を酸塩基反応により生成させ、中和エネルギーの電気エネルギーへの変換を行った。金属アクア錯体を利用したこのようなエネルギー変換は当研究が最初の例である。また、この錯体はこのような電気化学的な変化だけでなく有機化合物の酸化反応の触媒としても機能することが明らかになっており特徴的な電子状態にあると考えられる。そこで、脱プロトン化によるアクア錯体からヒドロキソ錯体への変化をESR、NMRなどの磁気測定により追跡し、一重項状態のアクア錯体が塩基の添加により三重項状態に変化することを明らかにした。また、アクア錯体とヒドロキソ錯体についてDV-Xα法による分子軌道計算を行い電子状態について詳細な検討を行った。その結果、ヒドロキソ錯体が三重項状態になるのは、脱プロトン化により生じるヒドロキソ配位子の非共有電子対がルテニウムやキノンの空軌道と相互作用し、HOMO-LUMO間のエネルギー差が無くなるためであることが分かった。
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