トンネル構造を含むマンガン酸化物であるK_<1.5>Mn_8O_<16>について、単結晶の合成条件の最適化を行った結果、純粋な相を得る事に成功した。得られた試料について、電気伝導度、磁化率、熱起電力等の測定を行った。磁化率の測定結果から、この試料は、ある温度T_1以上ではマンガンが3価と4価の平均原子価状態にあるのに対し、T_1以下では、3価と4価のサイトに区別がついた状態になることが分かった。この事から、T_1転移はマグネタイトのフェルベ転移と同種の相転移と考えられる。また、電気伝導度と熱起電力の測定結果は、室温付近でホッピング伝導が生じているが、T_1以下で伝導電子が局在してしまう事を示しており、上の解釈を裏付けるものとなった。この相転移の引き金として、トンネル内のカリウムイオンの秩序化が影響を及ぼしている事が示唆されたため、この物質を酸で処理する事により、トンネル内のカリウムをプロトンに置換した。その結果、この処理により、T_1転移が抑制される事がわかった。この結果は、T_1転移の起源についての上記の予想と矛盾しない。さらにこの現象は、トンネル内のカチオンの状態を変えることにより、マンガンー酸素骨格の電子物性を積極的に制御できる可能性を示している。一方、トンネル内にルビジウムを含んだRb_<1.5>Mn_8O_<16>の合成を行い、磁化率や電気伝導度の測定を行った。その結果、電気伝導度はカリウムの場合と比べて3桁程度小さく、また磁化率の挙動もカリウムの場合と大きく異なっていることが分かった。今後、電気化学的手法等も用いてさらに、トンネル内に化学修飾を加えて実験を行う予定である。
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