研究概要 |
2次元かごめ格子構造をとる磁性元素が軌道秩序することによる新奇なスピン-重項状態について実験的知見を得るため、モデル物質としてAV_6O_<11>化合物(A=Na,Sr,Pb)に着目した。本研究では良質な単結晶作成を行い、マクロな電気的・磁気的測定により多結晶試料では得られないこの系の電子状態を明らかにし、2次元かごめ格子における量子効果とその基底状態を明らかにすることを目的とする。本年度は実験装置の作成、試料の合成・評価、および基礎的・巨視的な物性測定、特に異方性の評価を中心に研究を進めた。 まずプログラマブル温度調節器を使用し、単結晶作成の出発物質となる多結晶試料作成用の高性能電気反応炉、単結晶作成用の電気反応炉を自作し、またデジタルマルチメーターを用いて、既存の電気抵抗測定装置を改良し、磁気抵抗やホール係数測定装置を作成した。次に固相反応法によりNaV_6O_<11>(A=Na,Sr,Pb)試料を合成し、粉末X線回折装置により評価を行った後、化学輸送法による良質な単結晶を得た。その後クーロメトリー法、熱重量分析法を用いて試料の酸素量を決定した。得られた多結晶および単結晶試料について電気抵抗測定を行い、各試料の4〜700Kまでの電気伝導性を明らかにした。SQUID磁化測定装置により、同じく4〜700Kまでの帯磁率を測定した。その結果、Sr, Pbの試料もNaと同様、構造相転移に伴って何らかの磁気的秩序が発生していることが初めて明らかになった。今後はNMRを用いて各バナジウムサイトの電子状態を詳細に検討し、この磁気的秩序が軌道秩序によるスピン一重項状態かどうか微視的な観点から明らかにする予定である。
|