10年度、ニトロキシド基とピリジニウム基が水素結合した電荷移動塩を合成し、固相状態での光水素移動に関する研究を行ったが、再現性のある結果が得られなかった。これは粉末状態での試料の光透過性などに原因があると考えられる。この光水素移動反応は水素結合が存在する限り、溶液中や剛体溶液中のおいても進行すると考えられるため、光透過性の高いグラス溶媒中での光反応について検討を行った。 まずSQUIDキャビティー中でのグラス溶液の光反応および磁気測定、データ解析などの方法を確立する必要があるため、ESR等の研究から光反応生成物が単純かつ発生率が高く、また磁気的性質の変化が大きくなると予想されるジアゾ基とニトロキシド基を分子内に併せ持つジフェニルアセチレン誘導体を合成し、SQUIDキャビティー中でのグラス溶媒中での光反応を検討した。この結果、SQUIDキャビティー中への光の導入は、市販のシリケート系ファイバーを用いることによって効率的に行うことができることがわかった。また、一般的にSQUIDによる溶液測定は溶媒の反磁性成分の寄与が大きくなるため、磁気的性質の解析に充分な精度を得ることはできないが、キャビティー中での光反応に関しては、光照射前後の磁化を差し引くことにより、溶媒及び試料の反磁性成分を完全に排除することができるため、充分な精度のあるデータが得られることがわかった。さらに、これらの測定の結果、実際に光反応によるS=1/2からS=2への磁気的性質のスイッチを実現することができた。 そこで、この方法論をニトロキシド基とピリジニウム基が水素結合した電荷移動塩に応用することにより、光による可逆的な磁気的性質のスイッチを実現できると考えられる。
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