有機伝導体の成分であるドナーの開発においては、伝導の次元性の向上が重要であると考えられており、分子内にテルルなどの重カルコゲン原子を導入することは、次元性の増大に関して有効な手段である。しかし、TTF骨格を一つ有するTTF、TSF誘導体が約1800種類合成されているのに対し、テルル置換体であるTTeF誘導体は、合成上の困難さからわずか10種類に過ぎない。さらに、その非対称体となると、未だ合成例がない。そこで、本研究では、これまで合成上の困難さから不可能であったテルルを含む非対称ドナーの合成法を新たに開発し、そのラジカルカチオン塩の構造および諸物性を明らかにすることを目的として研究を行った。初年度は、TTeFの非対称誘導体の合成方法を探索することに主眼を置いて研究を行った。TTeFの非対称誘導体は片側のコンポーネント同士のカップリングという従来の合成方法では合成できない。そこで、近年開発されたスズ化合物とエステルとのルイス酸によるカップリング反応を検討した。まずテルル側をスズでトラップした後、ルイス酸およびエステルと反応させたが、目的とする非対称体は得られなかった。反応条件や原料の組み合わせなど検討したが、目的物は得られなかった。以上のことから、テルルの誘導体は酸性条件下で非常に不安定であることが明らかとなった。そこで、次年度は、引き続き合成法の開発を目指して研究を行った。まず、ルイス酸下でも反応が進行する条件を見出すため、ルイス酸下で異性化してしまうジオキサン環を有する系について、異性化が進行しない条件を検討し、そのような条件を見出すことに成功した。得られた新規化合物は硫黄体であるが、従来のドナーに対し、分子内クーロン反発エネルギーが非常に大きいという興味ある性質を有していることを明らかにした。現在この反応条件をテルルを含む系に適応することを検討中である。本研究期間内に目的とするテルルを含む非対称誘導体の合成には至らなかったものの、硫黄体の合成研究から、テルル体合成の鍵となる知見が得られた。また硫黄体ではあるが、非常に興味深い新規ドナーの合成にも成功した。
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