液体エタンを用いた生体関連分子の非晶質氷包埋と、これを冷却したまま超高真空の測定チャンバー内に移送可能なサンプル調製チャンバーの製作を行った。生体関連分子の構造維持には水が必須であるが、同時にこの水の存在は、超高真空装置の真空度に悪い影響を与えてしまう。本装置はそれらの両立を図るものであり、特殊な装置故の様々な問題点を洗い出す必要があった。それらの経験は今後の研究の展開に十分生かすことができよう。このチャンバーには、(1)内部バルブ方式による高真空一低真空間の分離機構、(2)液体エタン/低温金属圧着一ハイブリッド型急速凍結機構、(3)チャンバー全体の位置調製を可能にするパラレルリンク保持機構、等の新しい工夫が施されている。チャンバーを接続する予定であった光電子スペクトル測定チャンバーに、真空漏れ等の重大な問題が生じたためにその対策に努力してきたが、現在のところスペクトル測定実験は休止を余儀なくされている。このため、本研究の試料基板に関連した置換基を有する自己組織化単分子膜(ピロリルアルカンチオールのSelf-assembled Monolayers)について、光電子スペクトルの測定や光電子強度の角度分布の計算を行った。この研究は、光電子スペクトルの測定とその強度計算の比較から、表面最上層にある有機分子や官能基の配向・配列を、低損傷かっ定量的に測定できることを示したものである。製作したサンプル調製チャンバーを活用して、今後はスペクトル測定を実施する計画である。
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