初年度の研究により創製された光学活性二点配位型ルイス酸を用いることでアリルビニルエーテルのクライゼン転位反応が穏和な条件下で円滑に進行し、良好な不斉誘起が見られることが明らかになったので、本反応の適用範囲について検討を行った。その結果、配位子のシリル置換基としてt-ブチルジフェニルシリル基を有するルイス酸を用い、端末にt-ブチルのような嵩高い置換基を持つアリルビニルエーテルを基質として反応を行った場合に最も高いエナンチオ選択性が得られることがわかった。またその際、単純なビナフトール誘導体から調整した光学活性一点配位型ルイス酸を用いると、反応性、選択性ともに著しく低下するということを確かめており、本研究のアプローチの有効性を明確にすることができた。さらにここで見られるルイス酸ー塩基相互作用に基づいた光学活性二点配位型ルイス酸によるエーテル酸素の二重活性化について分光学的な側面から検討した。具体的にはテトラヒドロフランをモデル化合物として選び、重クロロホルム中、光学活性二点配位型ルイス酸との複合体の^1H及び^<13>CNMR測定を行った。その結果、テトラヒドフランのα位のプロトン及びカーボンの化学シフトを評価することで、二点配位型の複合体形成を支持する知見が得られ、これが選択性発現の鍵であると考えられる。また、本研究で創製された光学活性二点配位型ルイス酸はカルボニル化合物のアリル化反応にも有効であることを見い出しているが、現段階ではいずれの系においてもルイス酸を当量必要とするという限界があり、真に実用的、効率的な触媒的不斉合成反応の実現を目指した配位子のデザインと適切な中心金属の探索を行っている。
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