本研究の目的は、表面上で高活性・高選択的に反応を進行させるために表面の構造・電子状態を積極的にデザインし、必ずしも従来の触媒上に存在しない新たな反応場を創ること、そしてそこで新規反応を実現することである。この目的を達成するため本年度行った研究のうち主な物を以下に示す。 1. 酸素修飾Mo(112)表面の一次元Mo鎖上に生じる活性酸素種の反応性 Mo(112)表面を酸素原子で修飾することで表面上に一次元Mo鎖を創った。その一次元反応場に更に吸着させた酸素種は非常に活性で、メタノールからホルムアルデヒドへの100%の選択酸化触媒反応を定常的に進行させ得ることを見い出した。また、その活性酸素種が反応の活性化エネルギー及び選択性に与える影響を明らかにし、反応のメカニズムについて考察した[研究発表1]。さらに、その活性酸素種について紫外光電子分光(UPS)、高分解能電子エネルギー損失分光(HREELS)を用いた測定を開始し、同定を試みている。 2. Mo_2C(0001)表面上の一次元Mo鎖の走査トンネル顕微鏡による観察 Mo炭化物はPtに匹敵する高い水素化活性や酸化活性を示すことが知られているが、表面での現象はほとんど分かっていない。安定なMo炭化物単結晶であるMo_2Cの(0001)表面について走査トンネル顕微鏡(STM)、低速電子回折(LEED)、X線光電子分光(XPS)を用いて表面構造のキャラクタリゼーションを行った[研究発表4]。特に精密に処理条件を制御することにより表面上にジグザグな一次元Mo鎖を創り出せることをSTMを用いた研究により見い出した。来年度は原子レベルで表面を直接観察しながら、この一次元鎖を用いた新規反応の開拓を目指す。
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