研究概要 |
天然にはgymnodimine,prorocentrolideのような大環状炭素骨格を含む化合物が知られており、その骨格は生体内では分子内Diels-Alder反応により構築されると推定されている。これらの骨格構築を合成化学的に鎖状分子の分子内反応により一挙に行うことを考えた場合、一般には分子の配座の自由度が大きく反応点同士が近づいた配座を取ることが難しいため、効率よく目的物を得ることは容易ではない。本研究では、長鎖アルキルアンモニウム塩や長鎖アルキルリン酸エステルなどから調製した人工膜中に、長鎖アルキル基の両末端に反応点を持ち、かつ分子内の適当な位置に親水性基を有する鎮状分子を取り込ませれば、膜の持つ低い流動性と密な環境のために配座が制御されて反応点同士が近づき、分子内反応が促進されるのではないかと考えた。 本年度は、上記コンセプトが実現可能かどうかを検証するためケイ皮酸誘導体の分子内光二量化反応をモデルとして選び研究を行った。実際には長鎖アルキル基の両末端にケイ皮酸エステル部位を持ち、中心部にコハク酸ハーフエステルを有する基質を合成し、まず基質単独の希薄溶液中での光反応の挙動を調べた。その結果、MeOH,hexane,CHCl_3,H_2Oなどの溶媒中では、環化体はほとんど生成せず、希薄溶液中では分子内環化は実現できないことが確認できた。 そこで、実際に基質を膜に取り込んだ状態で反応を試みることとし、基質とジヘキサデシルホスフェイトとを水中で混合分散させて膜を調製した後、光照射を行った。その結果予想通り分子内環化体が約50%の収率で得られることを見いだした。この結果は、人工膜による鎖状分子の配座制御が実現できることを示すものであり大変興味深い。来年度は、様々な基質を用いて本手法の適用範囲について調べるとともに、温度や膜構成分子等の効果について詳細な検討を行う。
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