これまで、固/液界面が関与した分子高次会合体(J会合体)形成過程に注目し、固相表面に存在するアニオンサイトと分子との静電相互作用、及び分子間の双極子相互作用に基づく自己組織化過程の寄与により、固/液界面ではバルク中で形成するものとは分光的に異なったJ会合体が組織化されることを見出した。従って、この種のJ会合体の構造は界面形成特有の構造やモルフォロジーを有することが期待される。規則正しいアニオンサイトを有し、表面構造が規定されたマイカを固相に用いて、マイカ/水溶液界面に形成するシアニン色素分子のJ会合体の詳細を分光測定及び構造観察の双方の観点から研究を行った。分光測定に基づく光学機能、即ち、J会合体の先鋭な吸収極大波長やその線幅、或いは発光寿命は、温度などの外的な摂動を殆ど受けず、また色素分子の濃度依存性も観測されず、J会合体の成長に依らないことが明らかとなった。一方、原子間力顕微鏡によるその場観察によると、J会合体は高さが数ナノメートルで、広さがサブマイクロメートルに及ぶメゾスコピックサイズのドメイン構造を形成する事、また、色素濃度の増加に伴いVolmer-Weber型の成長をする事が明らかとなった。更に、固相であるマイカ表面のアニオンサイトの配列の影響を受け、形成及び成長のエピタキシャルな異方性が初めて観測された。これらの結果を考察すると、原子間力顕微鏡で観測された単一のJ会合体メゾスコピックドメイン内で励起子相互作用のdisorderが存在している事、即ち、コヒーレントに分子が相互作用しているサイズは実際に観測されたJ会合体ドメインよりもかなり小さい事が分かった。従って、単一J会合体はコヒーレントな会合体の集合構造であるという重要な知見が得られた。
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