研究概要 |
1. ナミテントウでのDistal-1ess遺伝子の発現 斑紋形成に関わる遺伝子が働く時期を調べるために,翅原基の切除実験等を試みたが,はっきりさせる事はできなかった.しかし,組織学的観察により翅原基の形成は4齢幼虫期に開始することが明らかになった.そこで,鱗翅目昆虫で,斑紋を形成する翅始原組織の細胞群で発現していることが明らかになっているDistal-less(Dll)遺伝子について,ナミテントウ翅原基における発現を,チョウのDll蛋白に対する抗体を用いて調べた.その結果,4齢幼虫期の翅原基においてはこの遺伝子は翅の縁に沿って発現しており,斑紋状には発現していなかった.また,前蛸期と蛹期の翅原基では同遺伝子の発現は全く見られなかった.従ってナミテントウでは,Dll遺伝子は斑紋形成に直接関与はしていないと考えられた. 2. ナミテントウの翅始原組織において,前蛹期に特異的に発現している遺伝子のクローニング 発生生物学的な知見によれば,細胞の分化と細胞の増殖とは密接に関連していると考えられている.そこで,ナミテントウの翅原基についても細胞増殖が盛んであると考えられる前蛹期に,斑紋形成に関与する遺伝子も発現されていると考え,まず,4齢,前蛹,蛹の各段階の翅原基からcDNAライブラリーを作成した.次に,前蛹のcDNAから4齢のcDNAと共通に存在するものをハイブリダイゼーションを利用して除去,前蛹期に発現が始まるcDNAとした.また,前蛹のcDNAと蛹のcDNAに共通するものを除去し,蛹期に発現が減少するcDNAとした.以上の結果,10個のcDNAクローンが分離された.これらのcDNAの塩基配列をホモロジー検索した結果,知られている遺伝子の中に,高い相同性を示すものはなかった.今後,得られたcDNAを用いて本種翅始原組織における発現場所を調べることにより,これらの遺伝子が斑紋形成に関係しているかどうかを明らかにしたい.
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