澱粉をグルコースとマルトースに分解するアミラーゼは、ショウジョウバエではおもに中腸で発現され餌環境を通して外界と直接に相互作用する酵素である。また遺伝子が重複しており異なる餌環境下で重複遺伝子間で発現パターンが変化している種が多いことからショウジョウバエのアミラーゼシステムは、遺伝子の多重化とそれに続く機能分化が生物の適応進化に果たす役割を明らかにするのに良いモデルシステムのひとつである。トラフショウジョウバエ(Drosophila kikkawai)にはゲノム中に4コピーのアミラーゼ遺伝子があり、それらはhead-to-headの重複(Amy1、Amy2)とtail-to-tailの重複(Amy3、Amy4)の二つのクラスターを形成していた。電荷の異なる二つのアイソザイムSとFはそれぞれAmy1、Amy2とAmy3、Amy4にコードされ、異なる餌環境下でアイソザイム間で著しく発現パターンが変わっていた。多重遺伝子族の進化を考える上で、その起原と分子進化パターンを調べることは重要である。そこで近縁3種について同様の解析を行ったところ、近縁3種においてトラフショウジョウバエ各遺伝子のorthologous geneが存在し、二つのクラスターの重複は種分化以前に起こったことが明らかになった。Amy1、Amy2 lineageとAmy3、Amy4 lineageを比較すると後者では二つのクラスターの重複後から種分子前までに同義置換速度が有意に上昇していた。また、調べた4種ともArmy3、Amy4よりAmy1、Amy2の方が異なる餌環境下および発生段階で著しく応答するという同様の発現パターンを示した。以上より二つのクラスターの重複後から種分化前までに分子進化パターンが変化し、同時に発現調節の分化が起こったと考えられる。それらの変化の因果関係については今後の研究課題である。
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