ペラ科魚類カザリキュウセンにおいて、雌の配偶者選択の指標をさらに明確にするため、沖縄の自然状況下で雄の除去実験を行った。その結果、派手な体色を持つ雄が消失すると、雌は地味な体色の雌を配偶相手として選ぶことが判明した。また、その直後に雄を戻す操作を行ったところ、雌の好みは大型雌から雄へと直ちに変化した。これらの結果は、派手な体色という指標がない場合には、雌は配偶相手を体長で選んでいることを示唆しているとともに、配偶相手の性の認知が正確でないことを示している。今後は、体色と体長のいずれが雌の配偶者選択の指標として重要であるかを、雌から雄への性転換機構とともに明らかにしていく予定である。 また、ハゼ科魚類ウミタケハゼおよびクモハゼを用いて水槽実験を行い、それぞれの種で繁殖と性転換の様式を明らかにした。両種とも雄が巣をつくり、雌に産ませた卵を保護する雄縄張り訪問型の配偶システムであった。ウミタケハゼは雄の方が大きく、雌として繁殖した後、成長にともなって雄に性転換した。また、雄は雌に求愛する時、頭部が顕著に黄色となる婚姻色を示すことが明らかになった。このような求愛時のみ見られる雄の婚姻色は多くの魚類で知られているが、それが雌の配偶者選択に影響を与えているという報告はまだない。そこで現在、この婚姻色が雌の配偶者選択の指標となっているか、さらに婚姻色の鮮やかさが雄の体のコンディションなどを表しているかを明らかにするため、画像解析装置等を使用して実験を行っている。クモハゼでも小型の雌が成長とともに雄へと性転換することが確認されたが、その他に大型の雄が雌へと性転換した。この現象は、これまでの性転換理論ではうまく説明できず、今後さらに配偶システムや性転換の起こる状況を明らかにしていくことにより、性転換および配偶者選択の理論に新たな視点を開拓することが出来るのではないかと期待される。
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