様々な社会構造をしめすハリアリ類の女王(あるいは受精産卵働きアリ)と働きアリ間の外分泌腺およびそのほかの内部形態の比較を行った。まだ種数が十分ではなく、一般論として述べることはできないが、形態的女王は以下の外分泌腺の大きさが働きアリよりも著しく大きかった。(1)後胸側板腺 後胸側板腺はハチ目のなかでアリだけにみられる特有の分泌腺で、抗菌物質を分泌しているといわれているが、その機能はまだ明確ではない。今回明らかになったカスト差はその機能を考えるうえで非常に興味深い。(2)デュフォー腺 Leptogenys diminutaについては分泌物質の化学組成も検討し、女王と働きアリ間ではサイズだけではなく、分泌物も異なることが明らかになった。この結果は同じ分泌腺でもカスト間で機能差があることを示唆している。(3)受精嚢腺。受精産卵働きアリを持つ種での産卵個体と労働個体間の比較をトゲオオハリアリでおこなった。本種では受精嚢と受精嚢腺の大きさが機能的カスト間で著しく異なり、これらは受精の可能性と無関係に卵巣発達とともに発達することが示唆された。本種では、羽化後に翅芽を噛りられると働きアリになり、翅芽を持った個体がコロニー内にいない状況で羽化した個体のみ翅芽を保持し続け、その個体だけがオスと交尾できることが知られている。この機能的カスト分化のプロセスを詳しく検討したところ、翅芽保持個体は羽化後に腹部末端節にオス交尾器を受け入れる器官を発達させるが、翅芽を噛り取られた個体はそのような器官が発達しないことが明らかになった。この器官は、いくつかのハリアリ類の女王でも観察されており、トゲオオハリアリは「女王のいないハリアリ」ではなく、形態分化が羽化後に生じる著しくユニークなアリであることが明らかになった。
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