研究概要 |
本年度の取り組みとしては,当該研究費により購入したパーソナルコンピュータを用い,個体群動態を表す拡散方程式の解析手法の整備を行った.その手法に基づき,個体群の大きさを臨界値以下に抑えるために,個体群が臨界個体数に達した時に一定の個体を間引きするような管理方策について理論的検討を行っている. 特に,大形草食獣などは,個体数が多くなると生息地の植生に対する食害などを引き起こして,その地域の群集構造に大きな影響を及ぼす場合がある.それを阻止するためには,問題を引き起こす臨界個体数以下に個体数を抑える必要がある.その方策として,個体数が臨界値に達した時に一定の個体数を間引きして個体数を一時的に減少させることが考えられる.その方策では,間引き個体数を増やすことで人為的な管理の周期を長くすることもできるが,そういった大量の間引きは,個体群が環境変動の影響によって絶滅する確率を高めることにもなるだろう.このようなトレードオフは,野生生物の管理上,重大な問題である.そこで,上記のような間引き管理の下での個体群の絶滅確率とその管理の経済的な有効性の検討を進めている. 個体群サイズの分布を確率分布で表し,内的自然増加率が変動する状況での個体数分布の変化を拡散方程式で記述することで,個体数がある値以下になるまでの平均待ち時間を解析的に求めることができた.またその解析の中で,人為的な管理の平均周期も解析的に得ることができた.これらの結果に基づいて,具体的な野生生物管理のあり方に提言を与えることもできると考えている.これらの取り組みは投稿論文としてまとめられており,現在,Theoretical Population Biology誌に投稿中である.
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