本研究課題で10年度内に目指した目標は概ね達成された。即ち、水溶性クロロフィルタンパク質(WSCP)を大腸菌中で発現させ、その組換えタンパク質を用いてチラコイド膜のクロロフィル分子の移動にWSCPが関与しうる事を示した。また、WSCPのシグナル配列について解析し、その特徴が葉緑体輸送のものではなく小胞体輸送のものである事を示した(発表論文1)。現在、遺伝子導入の技術を用いて、このシグナル配列の機能を詳細に解析している。 WSCP中のクロロフィル分子がチラコイド膜へ輸送されるかどうかを調べるためには放射標識したクロロフィル分子が必要である。このために、緑藻Dunaliella viridisに^<14>CO_2を取り込ませ、クロロホルムにより標識されたクロロフィルを抽出した。現在、WSCPとの再構成を行っている。 WSCPのゲノム遺伝子のクローニングについては、カリフラワーゲノム遺伝子ライブラリーを構築し、WSCP cDNAをプローブとして大規模なスクリーニングを行い、現在、50個の陽性プラークを得ている。そのうち、現在までに約20個のクローンについての概略が明らかとなっているが、非常に興味深い事に、それらのすべてはWSCPに高い相同性を有するが、全てはWSCP cDNAと事なる遺伝子座(関連遺伝子)であり、WSCPは巨大な遺伝子群を構成している事が、明らかとなった。それら関連遺伝子座のうち、幾つかのものについては組換えタンパク質を大腸菌で発現させ、クロロフィルとの結合能を有しているものとクロロフィルを結合しないものとに分類した。現在、両群の配列を比較してWSCP中のクロロフィル結合部位の推定を行っている。 また、現在までにWSCPのcDNAがクローニングされている植物は、わずかにカリフラワー、マメグンバイナズナ、セイヨウアブラナのみである。ダイコンのWSCPはそのソーレ帯の吸収スペクトルに特徴があり、WSCPの多様性の観点から、ダイコンWSCPのクローニングも現在行っている。
|