研究概要 |
脊椎動物の水生から陸生への進化と神経葉ホルモン系との関わりを明らかにするため、肺魚類の神経葉ホルモン遺伝子の構造とホルモンの生理的役割に関する研究を進め、平成10年度には以下の結果を得た。 1. アフリカ産ハイギョProtopterus dolloiの視床下部を材料に、cDNA解析により神経葉ホルモンおよびその前駆体構造を明らかにした。1種類のバソトシン遺伝子と、2種類のメソトシン(MT)遺伝子が得られた。前駆体構造の比較ならびに分子系統学的解析から、肺魚類は真骨魚類とではなく四肢動物と相同な神経葉ホルモン遺伝子を持つことが明らかになった。多くの肺魚類が夏眠により乾燥に耐えるという生理的特徴からも、このホルモン分子・遺伝子の相同性の結果は大変興味深い。P.dolloiからは2種類のMT遺伝子が得られたが、ともに1個体の視床下部で発現していることを確認した。オーストラリア産ハイギョ(Hyodo et al.,1997)の結果などともあわせて考えると、現存する全ての肺魚類が2種類のオキシトシン(○T)属遺伝子を持つ可能性が高い。このOT属遺伝子の重複は、祖先型OT属分子からMTへという分子進化の原因あるいは痕跡を示しているのではないかと考えている。 2. 夏眠に伴う神経葉ホルモンの産生・分泌量の変動を調べるため、実験室内で夏眠状態を実現させる方法を検討した。泥の中での夏眠の他、ビニール袋の中で夏眠させる方法も開発した。後者では、短期間で簡単に夏眠させられるだけでなく、動物の状態の確認、さらには体重の減少の測定や薬物の投与も可能になる。さらに、P.dolloiとp.annecrensの両種で比較したところ、夏眠の実験にはP.annectensの方が適していることがわかった。 11年度は、夏眠にともなう神経葉ホルモンの産生や分泌量の変動、調節機構を調べる。
|