脊椎動物の水生から陸生への進化、特に体液調節機構の変化と内分泌系の関わりを明らかにするため、肺魚類の脳下垂体神経葉ホルモンに注目し、その構造と生理的役割に関する研究を進めた。 1.10年度に、アフリカ産ハイギョの視床下部から2種類のメソトシン遺伝子を得たが、用いた魚が4倍体だという問題があった。そこで、4倍体化由来と考えられる遺伝子をクローン化し、分子系統学的解析を行った。その結果は、10年度の報告書に述べた、神経葉ホルモン遺伝子の分子進化に対する仮説を支持した。 2.11年度には、板鰓類(ドチザメ)の神経葉ホルモン前駆体の構造を解析する機会を得た。肺魚類は夏眠時に尿素を蓄積するが、海産板鰓類も尿素を体内に蓄積することにより高い浸透圧環境に適応する。興味深いことに、ドチザメも肺魚類と同様、真骨魚類とではなく四肢動物と相同な神経葉ホルモン遺伝子を持つことがわかった。 3.10年度に開発したビニール袋を用いる方法により、Protopterus annectensを夏眠させ、1、3、6ヶ月目にサンプリングした。血液や筋肉中の各種イオンと尿素濃度、水分含量などさまざまな要因を解析した結果、自然状態である泥の中での夏眠と生理的に違いがないことを確認した。また、6ヶ月間夏眠させたものを水中に戻すと、24時間以内に再び泳ぎ始め、数日かけて尿素を排出することもわかった。現在、神経葉ホルモン産生量の解析を進めている。 これまで、魚類における神経葉ホルモンの研究は真骨魚類が中心であった。本研究により、少なくとも神経葉ホルモンに関しては、板鰓類から肺魚類、四肢動物という類似関係が見出された。哺乳類では抗利尿による水分保持作用が注目されるが、尿素の調節をキ-ワ-ドとすることにより、体液調節に関わる機能の起源ならびに普遍性を捉えられるのではないかと考えている。
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