本研究の目的は、環境浸透圧の変化にともなう塩類細胞の機能分化を、形態・機能・分子レベルで解明することにある。塩類細胞が高密度に存在し、扱いやすいトビハゼの皮膚をモデルとして解析を行った。本年度においては、以下の成果が得られた。 昨年度、海水中においては塩類細胞はCl^-の分泌のためその開口部を速やかに開くこと、淡水中でのCl^-の分泌停止には開口部を速やかに閉じることを見た。そこで、トビハゼを淡水から様々な溶液に移し、この開口部の開閉が何の刺激によるのかを調べた。NaCl、マニトールといった浸透圧刺激だけでは海水の場合ほど開かない。しかし、海水と同じ濃度の10mMCaのみで海水と同じ結果がえられた。ついで、環境水のCa濃度を淡水レベルに下げると、開口部は速やかに閉じた。これらの時に、血中Caは変動しない。また、この反応は、Caチャネルブロッカーのヴェラパミルによって抑えられた。したがって、Caは(塩類)細胞内で作用していると思われる。 昨年度の成果と併せると、魚が海水に入ると、海水中のCa(塩類)細胞内に流入しする。そして、おそらく細胞骨格系を働かせることにより、塩類細胞の開口部を速やかに開き、Cl^-を分泌していると思われる。淡水中では逆のことが起っていると考えられる。 さらに、塩類細胞の機能分化をホルモンとの関連でも検討するための、第一段階として、トビハゼで、プロラクチン(PRL)と(GH)のcDNAをクローン化した。これらをプローブとして、PRLmRNA量は淡水中で上昇し、GHmRNA量はいくつかの硬骨魚のように海水中で増大することを、血中コルチゾルとの関連で見いだした。
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