交付申請書の「研究の目的」で記載した通り、当初は、食欲抑制物質(レプチン)と性ステロイドホルモンの相互制御部位として乳頭前核腹側核(PMv)を想定した。しかし、10年度最初の実験として、レプチンをラットの側脳室内に注入して神経活動上昇マーカーであるc-Fosの出現を検討したところ、他の研究者によって報告された結果とは異なり、PMvにおけるc-Fos出現性に変化が認められなかった。従って、PMvに対するレプチン作用に研究を絞る前に、報告者自ら、摂食調節物質の相互作用が行われている脳部位を確認する必要があると判断した。そこで、成果を出せなかった上記実験に引き続き、(1)ラット側脳室内に、レプチン、食欲促進物質(NPY)、およびMPY受容体阻害剤をそれぞれ単独および同時投与し、それによる摂食量変化とc-Fosによる脳内活動部位を検討した。また、(2)PMvの生理的機能の解明を進めるため、交付申請書で記載したプロジェステロン受容体のPMvにおける分布を検討した。 その結果、(1)レプチンとNPYは、主に視床下部室傍核や視床下部背内側核で相互作用していることが判った。さらに、PMvがこれらの相互作用を受けている部位とは断定出来ないことが判った。この研究成果は学会で発表し、雑誌に投稿中である。また、 (2)PMvには少量ながらプロジェステロン受容体(PR)が存在しており、さらに、その細胞は一酸化窒素合成酵素(NOS)を含んでいることが明らかとなった。この研究成果は現在投稿準備中である。 摂食行動と性ステロイドホルモンとの関係を、PMvに対するレプチンの作用という点から解明することは難しくなったが、PMvにPRとNOSが分布していることが判明した。PMvは嗅覚との関係が注目されるため、今後は食欲調節機構として嗅覚にも着目し、食欲と性ステロイドホルモンの相互作用を解明していく。
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