組み換え種分化の一例として考えられているエヒメテンナンショウ(Arisaema ehimensis J.Murata et Ohno)とその推定母種を対象に、本年は酵素多型解析を行った。エヒメテンナンショウの6集団、推定母種であるアオテンナンショウ(A.serratum(Thunb.)Schott)とカントウマムシグサ(A.tosaense Makino)のそれぞれ6集団、3集団から集団サンプリングを行った。12酵素種における17多型遺伝子座について、対立遺伝子を計算し、3種間の遺伝的同一度ならびに遺伝的距離を求めたところ、エヒメテンナンショウは、推定母種のどちらかに特に近いということはなかった。また、酵素多型遺伝子頻度をもとに集団間のフェノグラムを作成したところ、エヒメテンナンショウは一つにまとまらず、アオテンナシショウに近い集団やカントウマムシグサに近い集団の両方が見られた。これは、エヒメテンナンショウが、推定母種から交雑によって生じたという仮説を部分的に指示する。また、エヒメテシナンショウが交雑起源によって起源したとすると、推定母種の遺伝的多様性を両方から受け継いでいるため、遺伝的多様性が高い可能性が考えられたが、実際にエヒメテンナンショウは遺伝的多様性が両推定母種よりも高い傾向が見られた。これらのことから、エヒメテンナンショウが組み換え種分化により推定母種から分化した可能性は高い。エヒメテンナンショウが組み換え種分化によって生じたかどうかをさらに詳細に検討するためには、酵素多型よりも変異性が高い遺伝的マーカーを用いた解析や、塩基配列情報をもとにした解析が今後必要であると考えられる。
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