遺伝子のDNAの塩基配列、あるいは蛋白質のアミノ酸配列の進化のパターンは、遺伝子の機能、ゲノム上の位置などの要因によって異なる。そのため、系統解析においても結果が遺伝しによって異なる場合が生じる。そこで、配列データのどのような性質が系統解析の信頼性に影響するのかを明らかにし、系統解析に適した遺伝子を同定する試みを行った。系統関係がよく分かっているショウジョウバエ4種について7つの遺伝子の配列データを用いて系統関係を推定し、配列データの特性と系統樹推定の信頼性との関係を調べた。 その結果、(1)推定される系統樹の信頼性(ブートストラップ値)は、配列データのサイト数、配列間の進化距離が同程度であっても遺伝子によって大きく異なること、(2)正しい樹形を支持する情報を持つサイトの数と誤った樹形を支持する情報を持つサイトの数の比が、推定される系統樹の信頼性をよく反映すること、(3)コドンの3番目の塩基座における塩基置換速度が1・2番目の塩基座に比べて極端に速い場合はアミノ酸の配列に翻訳して用いた方がよい結果が得られることがわかった。さらに、コンピュータ・シミュレーションの結果、塩基座間の置換率の変異とトランジション/トランスバージョン比の両方が大きくなると、相乗作用によって系統解析の信頼性が非常に悪くなることが明らかになった。これらの結果は、系統解析に広く用いられているミトコンドリアDNAが、実際は系統関係には適さないことを強く示唆した。一方、Xdh遺伝子とwhite遺伝子はショウジョウバエの系統解析に非常に適していることがわかり、今後、この分野の研究に有用であることが予想された。
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