本研究では、甲殻綱エビ目コエビ下目のうち、他の海産生物と共生関係を有する種について、分類と宿主選択に関する調査を行った。 本州中部の伊豆半島から採集された、刺胞動物門花虫綱のナシジイソギンチャクと共生するテナガエビ科カクレエビ亜科の一種は、新属新種であるとみなされた。ナシジイソギンチャクは個体群によって生時の色彩が著しく異なり、今回調査した標本は、宿主の色彩に応じて著しい斑紋パターンの差異を呈していた。コエビ類では、斑紋パターンが種の標徴形質として有効であるが、本種においては、宿主への隠れ込みに適応した種内変異であると考えられた。本研究の成果は1999年5月に出版予定のアメリカ甲殻類学会誌で公表される。 また、同科カクレエビ亜科ムカシカクレエビ属の未記載種一個体を八丈島の海底洞窟より採集した。本種は、棘皮動物門のウミシダ類と共生する、ウミシダカクレエビに酷似する。しかし、胸脚の長さなどによって識別される。本種の宿主は、おそらくウミシダ類ではないものと考えられる。本種については、新種として記載するための論文を準備中である。 さらに、八丈島において、魚類と清掃共生の関係にある、同科テナガエビ亜科のソリハシコモンエビ属エビ類の標本を多数採集した。その他の産地から得られた標本も併せて精査した結巣、従来Urocaridella antonbruniiとして扱われていた種の中には、少なくとも5種が含まれていた。これらの種は、生時の色彩は明らかに異なるが、形態は極めて類似しており、隠蔽種の関係にあるものとみなされた。本研究では、これらをUrocaridella antonbrunii complexとして扱い、分類学的再検討を進めている。
|