1997年にデデリエ洞窟から発見された人骨は、成人小臼歯2本とおよそ1体分の小児骨格であった。これらの資料に加え、今年度(1998年)の調査において同じ小児の骨格と成人遊離歯、青年あるいは成人と思われる大腿骨骨幹部が発見され、研究資料として加えることができた。 今年度は、これらの資料のクリーニング、保存処理、復元をおこない、写真撮影、レントゲン撮影、レプリカ作成を行った。基本的な形態観察の結果、以下のような知見を得た。 ●成人小臼歯は歯冠の大きさが小さく、ネアンデルタールの変異の下限であるが、歯根が長い点は現代人とは異なりネアンデルタール的である。 ●小児骨格の保存状態は比較的良好であった。すなわち -頭蓋は顔面と底部を欠いているが全体の形態が復元できた。 -四肢骨は断片的であるが、下肢骨(腸骨、大腿骨、脛骨、腓骨、足指骨)は比較的良く保存されている。 ●頭蓋、四肢骨ともにネアンデルタール的な特徴が見られた。 -乳歯は前歯部が大きく、乳臼歯はタウロドンティズムを示す。 -脳頭蓋が丸く、最大幅をとる位置が低い。 -後頭部に横走する隆起とイニオン上窩が存在する。 -四肢骨は全体的に華奢であるが、大腿骨、脛骨の関節部は大きく広がった形態を持つ。 -大腿骨、脛骨、腓骨は前後に弯曲する。 来年度は、比較資料、データの収集と、現代人の変異を押さえることが必要である。
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