研究概要 |
本研究では、電子一つ一つの移動を制御することが可能な「単電子トンネル素子」を分子性結晶を用いて形成し、その室温動作を実現することを目指している。この素子の動作可能温度は、電荷が注入される量子ドットの大きさで決まり、容量の小さな量子ドットほど高温での単電子トンネル制御が可能である。C_<60>のような分子性結晶を材料として用いれば、一つ一つの分子が量子ドットとして働き、その容量が非常に小さいため室温での単電子トンネル動作が期待される。本研究では分子性結晶による量子ドットを「選択成長法」によって形成し、室温動作する単電子トンネル素子を作製する実験を進めている。選択成長法では、基板表面に分子が成長する個所を前もって加工描画することによって、10nmスケールの自由な形状の有機分子微細構造を形成することができる。 本年度は、まず層状物質基板上での選択成長現象の起因を探るため、MoS_2,GaSe,InSeの3つの層状物質単結晶基板上にC_<60>分子を等量入射し、凝集率及び成長核密度の基板温度依存性を原子間力顕微鏡を用いて測定した。その結果、基板温度180℃においてMoS_2基板上ではC_<60>分子の凝集率が100%であるのに対し、GaSe基板上ではほとんど0%であることが判り、C_<60>分子のGaSe基板上での吸着エネルギーが非常に小さいことが実証された。また基板温度100℃ではInSe基板上で成長核密度がもっとも大きく、この基板上でC_<60>分子の拡散エネルギーがもっとも大きいことが判明した。 また本年度は、2電極を形成したGaSe基板上にC_<60>分子を電流-電圧特性を測定しながら成長し、C_<60>超薄膜の電気伝導に単電子トンネル現象が現れるがどうが実験を行った。これまでに一部の試料で不連続な電流-電圧特性が観察されており、これが単電子トンネルに由来するものがどうが検証を行っている。
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