シリコンの熱酸化膜は、その大部分はアモルファス構造であると考えられてきた。ところが最近、表面X線回折法により、単純なアモルファス構造ではなく酸化機構と密接に関連した長距離秩序をもつことが明らかになってきた。本研究は、酸化条件の違いによる長距離秩序構造のマ化を測定することにより、シリコンの原子レベルでの熱酸化機構を解明しようというものである。 本研究では、酸化温度、酸化後のアニール温度、基板の結晶性を変えた試料を作製し、長距離秩序構造からの散乱を測定した。また、イオン注入と高温アニールによって形成された埋め込み酸化層を持つ試料(SIMOXウエハ)やさらに内部熱酸化を行った試料(ITOX-SIMOX)についても測定を行った。 これの結果は、Si基板の結晶構造の情報は、酸化されても完全に失われることはなく、変調された形で長距離秩序構造として酸化膜中に存在することを示している。局所的に見れば一見アモルファス構造のよう見えるが、広範囲について統計的にみるとその秩序性が現れる。酸化は界面において酸素原qがSi原子の間に入り進むが、酸化が進行しても局所的なボンド長、ボンド間角の緩和だけで、一旦できたSi-Oボンドのほとんどは切れない。アモルフアスと結晶の界面としては理解が困難であった高い平坦性や非常に低い界面準位密度はこのような構造を考えることにより解釈できる。イオン注入と高温アニールによって形成された埋め込み酸化層では、その形成過程の違いのため、熱酸化膜で観測された秩序構造は観測されなかった。ところが、内部熱酸化で形成された酸化層には同様の秩序構造の存在を示す結果が得られた。
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