本研究では、固体表面の原子サイズ人工超微細構造の物性を理論計算によって予測し、興味深い構造の設計に役立つ知見を得ることを目指して研究を行い、次の成果を得た。 (1)水素終端シリコン表面上の吸着原子細線の電子状態:既に砒素吸着した原子細線上にアルカリ原子をさらに吸着させることによって強磁性が発現する事を見出しているが、アルカリ原子の代わりに砒素原子を吸着させても強磁性が発現し得る事を新たに見出した。 (2)水素終端シリコン表面上の吸着ガリウム原子のポテンシャルエネルギ-面の計算:モノハイドライド表面上においては吸着ガリウム原子拡散のエネルギ-障壁が小さく、室温において吸着原子が自由に動きうることを示したが、ダイハイドライド部分ではエネルギ-障壁が高いことを新たに見出した。この結果は、100K程度においてガリウム原子が1次元的に閉じ込められて棒状に観察されるSTM像をよく説明できることがわかった。 (3)第一原理電子状態計算プログラムの並列化:計算の効率的な遂行のために、既開発の電子状態計算プログラム(超ソフト擬ポテンシャル法を利用)を並列計算向けに改良した。改良したコードを用いた試行計算の結果、ノ-ド数の増加とともに計算時間が短縮されることを確認できた。 (4)種々の計算方法による計算結果信頼性の検討:単純な原子細線以外の、より複雑な人工構造について検討するためには、計算コストが低くかつ信頼性の高い方法が有用である。このために、上記(3)と並行して方法論の検討を行った。原子軌道ベ-スの方法論では、半経験的方法、および最小基底系による電子状態計算は構造最適化まで含めた表面人工超微細構造系研究には信頼性が不十分であることが明らかになった。
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