これまでの顕微鏡の限界を完全に凌駕する走査型トンネル顕微鏡(STM)並びにそこから派生した一連の顕微鏡(SPM)群の貢献によって、我々は容易に原子・分子の世界の美しさに触れることができるようになった。これらSPMの中に、近接場光学顕微鏡(SNOM)と呼ばれるものがあり、通常の光学顕微鏡が超えることのできない回折限界以下のスケールでの光学的実空間観察を可能にする。しかし現段階で、その空間分解能は個々の原子・分子を観察するには十分なものではなく、さらなる改良が求められている。その低分解能の要因はSNOMが減衰長の長い工ヴァネッセント場を探針一試料間距離制御信号として用いていること、分解能が主に探針の開口サイズに制限されていることの二点にある。 本研究では、上記の2つの手法を結合し、より高度なシステムを組み上げることを目的とした。具体的には、試料一探針間距離制御をSTMモードで行いつつ、ナノスケールの近接場で発現する情報をSNOMモードで検出するという独創的な方法をとった。その実現の鍵は、二重に金属コーティングを施した光ファイバー探針を導入したことにあり、この発想は本研究において最もオリジナリティーを発揮した部分である。本装置の性能を示す1つの例として、Au(111)面のSNOM/STM同時測定を行った。そこでは、探針表面近傍に存在する工ヴァネッセント場が表面の局所構造によって散乱され、その散乱光のうちの遠視野成分が光学的信号として用いられている。得られた結果は、λ/100の分解能と電子・光子に対する単一チャンネル輸送という他の装置の追随を許さない特性を示していた。特にこの分解能は世界的に見てもトップレベルの値であるといって差し支えないものである。なお以上の結果については、既に幾つかの国内学会、国際会議でもその成果を発表済みである。
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