本年度は、昨年度に開発を行った複合型近接場光学/走査型トンネル顕微鏡(SNOM/STM)を用いた有機分子の光物性の検出という大きな目標を設定して研究を行った。本装置の性能を示す1つの例として、Au(111)面のSNOM/STM同時測定について、λ/100の分解能と電子・光子に対する単一チャンネル輸送という他の装置(通常開ロサイズ程度で、λ/7)の追随を許さない特性を昨年示したが、この高分解能の利点を十分に利用したい考えである。 もちろんSTMの高い分解能とSNOMの持つ特質を複合化することの意義は、単に空間分解能の向上だけにとどまらない多くの可能性を秘めている。すなわち(1)ナノスケールの分解能での電子的、また光学的スペクトロスコピー(ここには単分子からの蛍光状態の解析という話題が含められる)、(2)基板上に吸着された有機分子へのトンネル電流注入によるエレクトロルミネッセンス状態の解析など、近年の有機エレクトロニクス素子開発の中核をなす分子エレクトロニクスの範疇において重要な位置を占める現象を調べることが可能である。(1)について1つ例を示すとすると、SNOM/STM装置を紫外線照射装置、フォトンカウンティングシステムと結合させ以下のような研究を行った。すなわち、基板表面に蛍光分子を付着させ、その蛍光を光ファイバー探針で局所的に検出し、分子の蛍光寿命を測定するというものである。蛍光有機分子の発光過程は、それ自体の固有の性質に加え、周囲の電磁場によっても影響を受けることが知られており、理論、応用の両側面からみても重要な物理過程である。本研究でも、例えば、分子の放射場が特定の光学的境界条件で反射され自分自身に戻ってきた時、放射場は分子自身の蛍光寿命と蛍光ピークを変化させるという、1970年代にKuhnらによって理論的に説明された現象を確認するような実験を行うことができた。
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