研究概要 |
本研究では,場の理論的アプローチ法を提案し,とくに結晶転位論と結晶塑性理論の間の本質的な橋渡しについて検討を加えた.とくに本年度は,場の理論を展開する基礎的枠組みとして非リーマン塑性論に着目し,塑性の各階層に対して統一的描像が得られることを明らかにするとともに,ゲージ場理論に基づく定式との相互関係および場の量子論的手法の適用性についても検討し,高次結晶塑性理論の構築のための基礎的概念を明らかにした.塑性変形した実状態における物体上の微小閉回路を自然状態に解放(写像)すると,回路内の欠陥の存在に対応してその終点において位置のくい違いあるいはベクトルの回転が生じる.前者は空間の“ねじれ",後者は空間の“曲率"をそれぞれ意味し,いずれも“接続の係数"と呼ばれる幾何学量Pを用いて定義されるテンソル量で表される.微小ひずみに対しては,ねじれは変位勾配テンソルの一次勾配,曲率はひずみテンソルの二次勾配で与えられる.したがって,少なくともひずみの二次勾配までは明確な物理的意味が与えられ,理論への導入が正当化される.これらねじれSおよび曲率Rにより,各種欠陥に対するスケールを越えた描像が得られる.また,各種スケールにおける欠陥場の描像を明らかにするとともに.相互作用場を導入して,各スケール間の相関を明らかにした.幾何学的場において,ミクロ変形場に対応したミクロ計量を新たに定義し,ミクロ-マクロ間の相対変形を考えることにより,両変形間の相関が自然に導入される.さらに転位・欠陥場に対するゲージ場理論に基づき基礎式を導出するとともに,ひずみ勾配項の導入方法について検討を加えた.ゲージ場理論は,ゲージ不変性の要請によりその数学的表現に対し強い制約を与え,理論構築の際の強力なガイドラインとなる.非リーマン塑性論に基づく転位・欠陥場の微分幾何学的描像との関係を考慮すると,ひずみの一次および二次勾配の導入に伴い,それぞれ“特性長さ"および“性面積"が理論に導入されることを示した.前者は主として硬化現象に,後者は軟化や損傷挙動と密接に関係することを指摘した.場の理論とのアナロジーに着目し,Bose凝縮に伴い導入される転位群が作る巨視的状態が転位パターン形成に対応することを指摘し,そのダイナミクスを支配する方程式の導出を試みた. 以上の研究成果に加え,研究代表者は場の理論や高次結晶塑性理論に関する各種ワークショップやオーガナイズドセッションを企画・実施し,関連分野の研究者との連携を密に図っている.また,1999年6月には米国機械学会(ASME)のAnnual Meetingにおいて勾配塑性論に関するシンポジウムを開催する予定である.
|