研究概要 |
本研究では,平面的に形成された微細構造物を,自己の内部応力を利用して変形させ,その形状を保持する方法(自己成形)を確立することを目的としている.本年度は,使用材料として,Zr基の金属ガラス(過冷却液体域を有するアモルファス合金)をスパッタリング法により薄膜化して使用した. 金属ガラスは,常温においては高強度,高弾性限界,高耐食性などのアモルファス合金としての特性を有する.さらに,過冷却液体域と呼ばれる一定の温度範囲において水飴状に軟化する.この性質を利用し,平面的に形成された微細構造物を自己成形することが可能と考えた. 平面的な微細構造の製作方法として,リフトオフ法を用いて長さ100〜800μm,幅25〜50μm,厚さ2μmの微細片持ち梁を製作した.この微細片持ち梁を用いて,金属ガラスを過冷却液体域への加熱することによって軟化させ,梁の自重による自己成形を試みた.検討の結果,微細片持ち梁を過冷却液体域まで加熱することで変形させる事に成功した. 変形量の測定,金属ガラス薄膜の組成分析,変形メカニズムのシミュレーションにより,過冷却液体域での変形は梁の自重によるものの他に,スパッタ時に薄膜と基板であるシリコンの界面に発生するシリコンリッチな極めて薄い層によるバイモルフ効果であることが明らかとなった.このバイモルフ効果による変形は,金属ガラスが常温の時には無視できるが,過冷却液体域で金属ガラスが軟化すると,その変形が顕著に表れる.さらに,過冷却液体域で変形した金属ガラスは,冷却すると変形を保ったままとなる. したがって,意図的に微細梁にバイモルフ構造を作れば,金属ガラス製微細梁を任意の形状に変形させることが可能であると考えられる.今後は,その具体的な微細梁構造の制作方法,変形量の制御方法について検討する.
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